幼児虐待としつけとの境界線はどこから?自分も他人ごとではない虐待リスク

東京・目黒区で起きた幼児虐待・女児事件に代表されるように、昨今は虐待、とりわけ幼児虐待の話が後を絶ちません。

しかしこの一連の事件で一番怖いのは、私たちもけして他人ごとではないということ。何故なら、どこまでが幼児虐待でどこからがしつけなのか、その基準は人によって曖昧だからです。
言い換えれば、自分が子供のためを思ってしていることが、第三者から見れば幼児虐待だと捉えられる可能性だってあるということです。

このように、私たちの日常は常に虐待リスクと隣り合わせ。
そこで今回は、曖昧になりがちな幼児虐待としつけの境界線はどこからなのか、虐待加害者にならないためにはどうしたらよいかということを考えてみました。

 

幼児虐待はどこから?

【目次】

 

幼児虐待はどこから?虐待としつけの境界線

虐待としつけの境界線はどこからなのか、改めて考えてみると非常に難しいものです。

子供の虐待が世間に明らかになった際、加害者である親達が「しつけのつもりだったが、やりすぎてしまった」と口を揃えて言うケースがテレビのニュース番組などで良く見られます。
多くの場合は幼児虐待をごまかすための言い訳にすぎないのですが、中には本当にしつけのつもりだったと思い込んでいる人が一定数いるのも事実です。

現代では、「悪いことをしたら叩いて間違ったことだと教えるのがしつけだ」と考える人もいる一方、「理由はどうあれ、子供に手をあげるのは虐待だ」と考える人もいるなど、人によってどこまでがしつけでどこからが幼児虐待なのか人によって判断基準が違うため、非常に厄介です。

 では、幼児虐待としつけは学術的に見てどう線引きされているのでしょうか。
しつけの定義と幼児虐待の定義を比べてみました。

しつけの定義

しつけの定義は辞書によると、 「社会生活に適応するために望ましい生活習慣を身に着けさせること。」とあります。

また、しつけの目標として「社会生活の秩序を守り、みずから生活を向上させていくことのできる社会人に育て上げること」とも書かれています。

成長段階に応じた方法で教育をすることが大事だという記述もあり、子供の発達段階に合った教育をするのがしつけといえるでしょう。

参考:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

 

幼児虐待の定義

対して幼児虐待は、保護者や養育者が子供の心や体を傷つけることで、子供の健やかに発育や発達を阻害することを意味します。

この幼児虐待を大きく分けると

・身体的虐待

性的虐待

心理的虐待

・ネグレクト

の計4つにわけられます。

 

具体的には子供に対し殴る蹴るなどの暴力を与える身体的虐待、子供に対しわいせつな行為をする又はわいせつな行為をさせる性的虐待、子供に対して著しい暴言や拒絶的な対応、自身の配偶者におこなう暴力など、言葉で直接子供に対しておこなう行為の他、母親など子供以外の人に対して行った暴力で子供の心を傷つける心理的虐待、子供の心身の発達を妨げるような減食や長時間の放置など、養育の放棄や怠慢をおこなうネグレクトなどのことをいいます。

このように、虐待と言ってもただ殴る蹴るだけの単純な暴力だけが虐待ではありません。 また、まだずっと座っていられない幼児に毎日長時間の勉強を強制してできなかったらご飯抜きにするなど、年齢にそぐわない教育をおこない、できなかったら罰を与える行為も虐待に当たるといえるでしょう。

 

幼児虐待には子供を自分の思い通りに「支配」しようとするエゴが隠れている

幼児虐待としつけで決定的に違うことが一つあります。

それは、しつけは早く子供が一人前になれるようにという親心が根底にあるのに対し、幼児虐待は子供を自分の思い通りの人生を歩むよう支配する親のエゴが隠されているという点です。

そして直接子供に身体的暴力を加えずにおこなう心理的虐待には、特にその傾向が見られます。

子供は自分の分身でも都合の良い人形でもない、自分とは違う人格の一人の人間です。
子供が自分の思い通りにならないのはむしろ当たり前のことだと受け入れられない人が、心理的虐待を引き起こしやすいと言えるのではないでしょうか。

 

幼児虐待の半数以上は心理的虐待である

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上記データは2019年に厚生労働省が公表した児童相談所が通告した内容に関する速報値の統計をとったものです。

データを見ると幼児・児童虐待の54%、つまり約半数以上が心理的虐待であることがわかりました。
身体的虐待やネグレクトとくらべ目に見えないため周りが気づきにくい心理的虐待は、発育が遅れる、言葉などの発達障害が出るなど子供の成長に大きな影を落とすことになります。

具体的には、以下の4つが心理的虐待だと言われています。

 

言葉による脅し行為

「お前はバカだ」、「あんたなんて生まなきゃよかった」「なんでこんなこともできないの」 など、子供達に投げかけられるあまりにひどい言葉の暴力。

このように、言葉によって子供の自尊心を傷つけるような行為は心理的虐待にあたります。

心理的に子供の心を傷つけるような言葉を日常的に子供に浴びせていると、次第に子供は常に親の顔色を伺い、萎縮するようになってしまいます。

 

無視・放置

赤ちゃんがずっと泣いていても赤ちゃんに声をかけてあやす、オムツを変えるなどのお世話をしないで無視・放置することも、心理的虐待にあたります。

赤ちゃんが泣くことは愛着行動の一つであり、親がきちんと相手をすることで赤ちゃんに安心感が生まれます。乳幼児期に無視・放置された結果、愛着障害に陥ると、自己否定感が強くいつまでも自立できないまま大人になり、最終的に引きこもりになってしまうケースも多くあります。

 

兄弟間での待遇の差別

さいころ、「お姉ちゃんだから我慢しなさい」、「お姉ちゃんはできがいいのに何であなたは頭が悪いの?」という風に、自分ばかり我慢させられた、兄弟と比べられたという経験はありませんか?
もちろん全部平等というわけにはいきませんが、明らかに上の子だけ、もしくは下の子だけ優遇する行為は、立派な心理的虐待の一つです。

 

子供の目の前での他の家族への暴力行為

今までは子供自身が直接受けた虐待ですが、子供に実際に危害を加えなくても心理的虐待となってしまうケースがあります。

それは、子供の目の前で家族に暴力を加えること。

たとえば、日常的に父親が母親に対してDVをおこなっているのを目にするなど、子供自身には手を挙げてなくてもその行為を子供が目撃したことでトラウマとなり、いつもおびえるようになる、親の顔色を伺うようになるなど心身に異常をきたすケースが数多くあります。

 

あなたも他人事ではない!自分でも気づかないうちに虐待加害者に

虐待のニュースを見る度に心が痛み、自分だったらそんなことはしないのにと涙を流しすような心優しい人でも、知らず知らずの内に幼児虐待の加害者となっている場合があります。

幼児虐待はどこからなのかを正確に線引きすることは非常に難解で、自分が意識せずにおこなっていた行為が実は幼児虐待だったという可能性はどんな人にでもあり得ることなのです。

また、自分は親にそうされて育ったからと、自分が子供のころに親から受けてきた虐待を虐待ではなく当たり前のことだと思いこみ、自分の子供にも同じようにおこなってしまうケースはさらに根が深い問題といえます。
なぜなら、虐待を虐待だと思っていない人に、「あなたがしているのは幼児虐待だ」と理解させるのは、非常に骨が折れることだからです。

虐待被害者が将来子供を持った時に虐待加害者となるケースはよくあると言われていますが、なんだか納得してしまいますね。

 

もしかして自分が幼児虐待をしているかもと思ったら迷わず専門家に相談を

今日は幼児虐待がどこからなのか、しつけとの境界線について考えてきましたが、難しい問題だと改めて再認識させられました。

一般的に幼児虐待としつけの定義とされるものはあっても、明確に区別することは専門家でも難しいことです。
特に周りに協力者や相談に乗ってくれる人がいないワンオペ育児のお母さんにとって、自分の子供に対する行為が果たしてしつけなのか幼児虐待なのか思い悩む人も多いことでしょう。

“もし自分が虐待していたとしたら母親失格だと周りに責められてしまう”
そんな思いから、自分のパートナーや両親などの身近な人に打ち明けられない人もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
もし子育てで悩んだら自分ひとりで解決しようとせず、自治体に設置された相談窓口や児童相談所などの公的機関に相談してみましょう。

児童相談所への連絡は全国共通ダイヤルが便利です

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もし、育児や幼児虐待についての悩みについて相談したいがどこに電話をかけたらいいのかわからないという場合は、児童相談所の全国共通ダイヤル「189」(いちはやく)がおすすめです。
すぐにお近くの児童相談所に電話をつないでくれ、相談も匿名でおこなうこともできますので、実名で相談したくないという方でも安心して相談することができます。
また、民間でも、幼児や児童虐待防止のための子育て支援をおこなっている団体がたくさんあります。

たとえば、特定非営利活動法人日本ららばい協会では児童虐待防止についてのDVD上映会など、気軽に参加できるイベントを開催していますので、まずは育児の気分転換のような形で参加してみるのも良いきっかけになるとおもいます。